政府広報放送局NHKを問う: NHKスペシャル「返還合意から18年、いま“普天間”を問う」の欺瞞



  NHK2014124日、NHKスペシャル「返還合意から18年 いま“普天間”を問う」を放送した。昨年暮れの1227日に行われた辺野古埋め立てを承認するという仲井真知事の電撃記者会見からほぼ一ヶ月後。番組の内容は、沖縄のために心を砕く日本政府と、日本防衛と沖縄の利益の狭間で苦悩する沖縄県知事…そんな美談だった。「問う」というタイトルから感じられるのは、ジャーナリズムの真実追究の姿勢(?)だったのだけれど、蓋をあけてみたら日本政府の広報番組だった。
 スタジオに小野寺防衛大臣を坐らせ、城本勝(NHK解説委員)がインタビューする。その合間に年間取材したという仲井真沖縄県知事の影像や、普天間基地の影像などが挟み込まれる。一部分でNHK沖縄の島田有希子(記者)が、沖縄の声代表といった感じで城本と並んで座り、ぎこちなく小野寺に(台本通りの)質問というか、発言促しをする。小野寺が応えに困るようなつっこみはまったくなく、スタジオのやりとりはまさに政府広報だった。NHK沖縄の人気女子アナ、島田記者の「ぎこちなさ」は、こんな形で本部(NHK)に利用されることへの憤りだったのかもしれないが、彼女もまたシナリオ通りの演技をした。

 立場のない報道はないのだから、この番組に立場があることに異議などない。政府に都合のいい物語を政府の立場から語るのなら、それは(少なくとも私が生きてきた時代の)ジャーナリズムとは無縁のものであり、政府広報というのが適切な名称だというだけだ。NHKの憲法である放送法の第一条第二項には「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること」とある。なるほど、憲法とはすべからく無視するべきものという自民党路線を踏襲するというわけか。
 
昨年の118日に、安倍首相はNHK経営委員5人すべてを「お友達」で固める人事を行った。その新しい経営委員会が1220日にNHK新会長に選出したのは元三井物産副社長の籾井勝人(もみい・かつと)だった。125日の就任会見で慰安婦問題について「どこの国にもあった」「なぜオランダには今も飾り窓があるのか」と発言し、元慰安婦への補償を求める韓国を「すべて解決したことをなぜ蒸し返すのか」と批判して問題になった人物だ

 前会長の松本正之(JR東海)は1月に任期が切れた後も続投を希望していたそうだが、財界から「報道が反原発に偏っている」、政界から「歴史認識が自虐的」などの批判を受けていたそうだ(産経ニュース『業績好調でも交代論…NHK松本会長なぜ「低評価」』2013.11.16。あれで「反原発に偏っていた」のお?「自虐史観」だったのお?と驚くと同時に、新会長の就任会見での妄言にも納得してしまう。こうでなくては安倍首相のお友達人事の甲斐がない。

 「返還合意から18年 いま“普天間”を問う」の番組ディレクター、山之上弘はNHKのサイトに「番組を終えて」というタイトルで、こんなことを書いている。

私たちは1年にわたって仲井真知事への単独取材を続けてきましたが、そこから見えてきたのは、沖縄が抱える基地問題の解決の難しさと、普天間基地の危険性を現実的に取り除く道を優先した知事の姿でした。
 スタジオでは、生出演した小野寺防衛大臣に、「基地問題を沖縄だけでなく日本全体の問題として考えていくために何が必要か」と問いました。この問いはそのまま、私たち自身に返ってきます。安全保障上の重い役割を担う沖縄の基地負担の軽減をどう図っていけばいいのか。相反する2つの課題を解決していくことが 求められていると思います。(下線は村山)

 在日米軍基地は日本全体の問題だ、というあたりに番組の一つの焦点があるようで、これは一見正当な問題提起に思える。その通り、沖縄だけの問題じゃない。在日米軍にいてほしいと思うなら、日本全体に基地をばらまけばいい。非核三原則が嘘ばかりで、米軍が日本に核を持ち込んでいることは既成事実となっているのだから、米軍基地を日本中にばらまくというのは、核兵器をばらまくということだ。現行の日米地位協定は少なくとも当面は変わる見通しがないから、沖縄で多発してきた米兵の犯罪もまた日本中にばらまくということだ。結局は「ほら、やっぱりだめでしょ?だから沖縄に負担してもらうしかないじゃない?」というわけか。基地問題を考えるというのは、どこにどうばらまくかを考えることではないのだが、そうであるかのように偽装されていく。

番組では仲井真知事の埋立承認に抗議する那覇市議会、県議会、北中城村議会、嘉手納町議会、八重瀬町議会、北谷町議会の決議には一切触れずに、辺野古埋め立て反対を一部の県民の行為であるかのように報道した。

辺野古を抱える名護市の市長選期間中に、自民党の石破茂幹事長は500億円の振興基金構想を表明した。基地容認派で自民党推薦の末松文信候補に投票すればね、というわけだった。119日の投票では、基地反対派の現職市長、稲嶺進が当選を果たし、稲峰支持者は「金で選挙は買えない!」と気勢を上げた。このことも、番組はもちろん一切触れない。

 菅(官房長官)や小野寺(防衛相)の、なんと人情味あふれる人物として描かれていることか。基地反対派の、なんと理不尽な非国民として描かれていることか。島田アナのぎこちなさだけが小さな抵抗だったのかな。(村山さたね)

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