蜜陽、山の闘い: 現地レポート―原発送電塔建設反対
韓国慶尚南道の蜜陽(ミリャン)は陽光と山峰が豊かな村だ。新芽が鮮やかな山々の林道をぼこぼこと 登っていくと「76万5千ボルト送電塔、絶対反対」「送電塔は自然も人も破壊する」と書かれた垂れ幕と看板が顔を出す。蜜陽の村の住民たちが送電塔の工事反対を闘っている現場だ。
4月下旬に私は蜜陽の山小屋に3日間寝泊まりした。工事反対運動を闘うハルモニたちがろう城する山小屋では、公権力による強制執行がいつ始まるのか極度の緊張が続く日々だった。
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| labornetより |
2005年に韓国政府と韓国電力(以下、韓電)は、蜜陽における送電塔工事計画を発表する。韓国南部の釜山市機張郡に位置する新コリ原子力発電所からソウル首都圏まで電気を輸送する目的で、新コリ原発から北慶南変電所までの総90.5kmの間に161箇所の送電塔を建設する計画だ。釜山市機張郡や隣接する慶尚南道梁山市などには109箇所の送電塔を既に建設済みであり、蜜陽市には世界最大規模76万5千ボルトの送電塔を含む64箇所の送電塔工事が予定されている。韓国政府と韓電は土地の強制収用を進めたが、蜜陽の村々では70、80代のハルモニたちやハラボジたちが中心となって送電塔工事への反対を闘ってきた。
しかし韓国政府と韓電は、戦闘警察などの公権力とそして「雇われヤクザ」を動員し、罵りや侮辱そして暴力によって工事を強行している。反対する住民には、「補償金」と称したお金(これまで韓国の公共事業では個人補償は認められていない)で買収をもくろむ。それでも抵抗する住民には、息子や娘などに脅迫や懐柔を強いる。またあるいは韓電が強制収容した工事予定地に(元々は村の住民の土地なのに)「不法侵入」したという口実で住民たちを起訴・告発し、反対運動に対して工事の中断や妨害を口実に損害賠償を請求する。
こうして政府と韓電からの圧力が強まる中でも、蜜陽の村の住民たちは9年にわたって工事反対を闘ってきた。建設反対運動を闘う中で蜜陽の村の住民たちは、①世界最大規模の送電塔建設を中断②大型発電所建設ではなく節電技術を導入③村を中心とした再生エネルギー政策の確立などを求めてる。
しかし2012年1月にはボラ村に暮らす故イ・チウ(75歳)ハラボジが焚身自殺し、2013年12月にもコジョン村に暮らす故ユ・ハンスック(74歳)ハラボジが農薬を飲んで自殺し、また2014年2月には韓電の工事作業者が墜落事故で死亡するという悲劇が起こってしまった。人々の関心が薄らいでいく中で、韓国政府と韓電による送電塔工事は着々と進み、だんだんと蜜陽の村の住民たちは孤立させられている。
3月末には韓電から通知書が送られてきた。公権力による山小屋の強制撤去を告げる内容だ。私が訪れた山小屋のハルモニたちも強制執行がいつ始まるのかと常に緊張した状態だった。食事や睡眠の間でも山の林道を車が登る音や人の話す声などが聞こえると(もしくは聞こえたような気がしても)韓電が来たのではないかと、ハルモニたちは外に飛び出して山に目を凝らし耳を澄ませる。山の登山客を韓電の関係者ではないかと詰問する場面もあった。また村ではある村人が700万ウォンを賠償に受け取ったとか、色々と噂が絶えない。これまで反対運動に顔を出していた村人がある日から来なくなり何故最近来ないのかと誘うと、実は韓電から金を受け取ったと声を細めて吐露したという。ある村人はこうつぶやく。「(最近は)連帯者が増えてうれしいが、村の人たちが来ないと・・・」 反対運動が長期化する中で、地元住民たちは疲れきっているのだ。疑心と不安が住民たちを蝕んでいる。
蜜陽の府北面(ブブックミョン)では現在6か所の地点がまだ工事されずに残っていて、その内4か所の地点に支援者がこしらえた山小屋にろう城し寝泊まりしながらハルモニたちが闘っている。ハルモニたちは送電塔の工事地点を韓電の建設計画に合わせて番号で呼ぶ。127番の山小屋には二人のハルモニたちが寝泊まりし闘っていた。
127番の山小屋は急斜面の上にそびえ建っている。ビニールハウスで造られた山小屋は、パワーショベルで掘ったお堀りと鉄条網で周囲を囲まれ、工事作業員や警察が強制執行する際にはハルモニたちが立てこもって籠城するそうだ。山小屋の中にはオンドルや冷蔵庫、外には簡易トイレなど長期におよぶ闘いに備えて何でも揃っている。支援者からのラーメンやお菓子などが山積みになっていた。電気は山の麓の協力者の家から引いてきて、水は他の地点から運んでくる。
山小屋に居ると、上空をヘリコプターが飛び交う。韓電が工事資材をヘリコプターで運搬し工事を進めているためだ。韓電の工事関係者は林道を避けて山の斜面をよじ登ってくるという。反対する住民たちを警戒しつつも常に監視しているのだ。既に建設されてしまった隣の地点には94mをこえる送電塔が見える。あれが76万5千ボルトの送電塔だそうだ。
トクチョンハルモニは、毎日山小屋に寝泊まりするのでなかなか家に帰る日がない。「家に帰っても食べるものも何もない」と冗談を言うほど、山の闘いが「日常」になってしまった。ハルモニが家に久々に戻るというので、畑で唐辛子の苗植えを手伝った。畑仕事をしながらとつとつと話す。「ハルモニが山から降りたら、韓電が村にお金を出す」と村の人たちが噂している。村の発展のためにも反対運動を辞めて山を降りてほしいとの圧力があるそうだ。この間は韓電から息子に電話がかかってきた。息子は山に立て篭もって闘う高齢の母を心配しているそうだ。「息子が大学に通っていた頃は『学生運動になんか絶対に行くな』と心配してたのに、そんな私がこの歳になって反対運動をすることになった(笑)。この闘いは命にかかわる闘いなんだよ。」普段大人しいトクチョンハルモニの信念はたくましい。
山小屋に帰って夕食のあと、ヒョンプンデクハルモニも帰ってきた。ハルモニは山小屋に寝泊まりする連帯者に食事をふるまい、支援者たちが訪問すると熱く語りかけ、毎日がなにかと忙しい。「勝てなくてもいいんだ。最後までやり抜くことが大事なんだ。」とハルモニは気強く語る。しかしどこか疲れた眼差しをする面も垣間みえる。
溜まった用事を済ませるために家に寄ってきたヒョンプンデクハルモニに、支援者が髪を切って綺麗になりましたねと褒めた。ハルモニは笑いながら「どうして分かったんだい。久々に髪を洗ったんだよ。」と答える。山の闘いが続く中で、髪を洗うのも久しいことになってしまった。山の闘いは、未だ終わりが見えない。(一兵)
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