福島核災の今:隠される被曝と軽視される人権


はじめに――戦後一貫した「知られざる核戦争:被曝犠牲者隠しの情報操作」――

 原爆投下後、アメリカ核戦略は原爆を「破壊力は巨大だが、放射能による被害は皆無で、通常兵器と同じ」と情報操作を行い、内部被曝の犠牲者は闇に葬られた。被害者の「被爆者として認めよ」のたたかいは今も続く。

 アメリカの被害情報戦略はAtomic Bomb Casualty CommissionABCC)(1975年以降は「放射能影響研究所」)の設立(1946年)に始まったが、国際原子力推進ロビーに引き継がれた。

 1950年国際放射線防護委員会(ICRP)の設立、1955年国連安保理事会の直轄機関として国際原子力機関(IAEA)を設け、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)がそれである。

 東電事故後の日本は激しい情報操作(知られざる核戦争)の戦場となった。

(1)国際核推進ロビーが準備万端整えたところに東電事故は生じた

 IAEA1986年に生じたチェルノブイリ事故の健康被害を「甲状腺がん」だけに限定した(実際はあらゆる種類の夥しい被害が記録される(ヤブロコフら:チェルノブイリの被害の実相)。

 IAEA1996年に、避難はさせるな、情報を統制せよ、専門家を自由に動かすな、と次の原発事故処理のポリシーを定めた。東電事故が生じると福島に事務所を構えた。

 ICRPは防護3原則の第1に(放射能拡散行為が)「正当化」されるのは「公益がリスクを上回ること」と謳う。奪われる人命(人格権)と発電(産業行為)を天秤にかけ、功利主義哲学を剥き出しにする。2007ICRP勧告において、従前は計画被曝だけ(制限線量:1mSv/年)だった被曝カテゴリーを緊急被曝現状被曝を付加して、事故時の被曝制限量を20mSv100mSvに拡大した。具体策が定まった直後2011年東電事故が生じた。

(2)激烈な日本政府の隠ぺいと棄民

「原子力緊急事態宣言」が事故当日なされた。これにより法律(「公衆に年間1mSv以上の被曝を与えてはならない」)を超越して、20mSvの基準が適用された。炉心のメルトダウンの発表は遅れ、避難指示も遅れ、甲状腺保護のための安定ヨウ素剤を配布せず、SPEEDI緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)も隠ぺいされた。

事故直後政府・文科省から大学長や学会長に「データ発表は国が行う。個々の研究者の調査は控えさせよ」と伝達がなされた。しかし、ストロンチウム、プルトニウム等の系統的測定を行わず、甲状腺被曝量を科学的に測定させなかった。弘前大学研究グループの甲状腺被曝量の科学的測定調査を、福島県が「住民の不安を増長する」という抗議で調査が阻止された。廃炉検討委員会が「石棺」という手段に言及したときに、福島県は「復興を妨げる」、「精神不安を掻き立てる」と石棺による方法を絶った。

福島県内の小児甲状腺がん罹患者は209人に達している。政府・福島県は「放射能事故との因果関係は見出されていない」と一切の科学的研究結果を無視する。福島県以外の県に対しては基本的な健康調査すら行っていない。

安倍首相がオリンピック誘致を決めた記者会見時に「健康被害は過去も、今も、将来も皆無である」と虚偽を明言。政府筋の専門家は「100Sv以下は安全」と説く。これは事実とこれまでに確立された自然科学的研究の一切に反する。

事故原因も究明しないで、原発再稼働、輸出を画策する。

事故後わずか5年で、避難区域が解消され、避難支援が停止され精神的賠償措置等も解除。復興と帰還が強制されている。チェルノブイリ法で保護された住民と大きな「人権」の違いを示す。

政府全官庁あげて「風評払拭、リスクコミュニケーション強化」を謳い、「放射線のホント」という虚偽に満ちたパンフレットを発行した。「専門家」らは「放射線被害が無いと思えば、幸せになれる」と大キャンペーン。侵略戦争を蛮行した戦時中の大本営発表と挙国一致体制を彷彿させる。住民犠牲の上の見せ掛けの事故終結・復興を虚飾する。

(3)汚染と健康被害の現状

日本政府は東電事故で放出された放射能はチェルノブイリの7分の1(それでも広島原爆の168倍)と言う。科学的に検討すれば4.4倍に上る(山田耕作ら)。

今なお、1日当たり600万ベクレルの放射能を放出し続けている。

福島沖で獲れたクロダイに30Bq/kg という過去最高のストロンチウムの汚染が確認された(2018年1月)。食品汚染は福島だけでなく広く東北地方~関東地方に全面的に展開する(2017年厚労省調査)。

3.11事故後多種疾病の患者数が急増し、死亡率が増加する。老衰、アルツハイマー、認知症、心疾患等、汚染県の死産、周産期等の死亡率が急増する。

事故後、放射線に関与すると判断される死亡者は日本全国にわたり、毎年5万人~10万人に上る。

(4)知られざる核戦争に抗して命を守る

真実と民主主義は表裏一体。正しい認識が市民の命を守る。被曝は可能な限り避ける。汚染地には立ち入るべからず。汚染食材は徹底して避ける。

矢ヶ﨑克馬(琉球大学名誉教授)⇒中文

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