民進党と日本右翼―弄ばれる「日台友情」物語
That’s all we’re interested in:
今年7月、安倍晋三という人が銃で撃たれて亡くなった。さまざまなスキャンダルにまみれた元日本国首相だった。中国では人々が喜んでいるというSNS情報も流れる中、台湾では「安倍晋三是台湾永遠的好朋友(安倍晋三は台湾の永遠の親友だ)」という蔡英文の言葉が紙面に踊り、「本当にいい人をなくした」感満載の記事が自由時報をはじめ、台湾各紙の紙面を飾った。
「憲法を書き換え、再軍備を進める危険な政治家」とか「極右の歴史修正主義者」といった(残りの世界では普通に見られた)評言は台湾では皆無だった。台湾の報道は、手放しで安倍を褒めたたえているように見えた。この点で日本の大手メディアと足並みを揃えたとも言えるが、後述する自由時報9月28日の記事のような、日本のネット右翼ツイッター投稿を唯一の根拠に、日本の反安倍勢力を矮小化する記事を見ると、日本の大手メディアというよりも‘ネトウヨ’に足並みを揃えたようで、何とも奇妙だった。
安倍の殺害から10日ほどした17日に開催された民進党の大会では、舞台前面に大きく安倍の写真を映し出し、その前で「古い友人の期待を裏切らないようがんばろう」と蔡英文が述べた。政権与党のこうした安倍礼賛行為は他の国では見られず、「台湾はまだ日本の植民地なのか」といった批判も(台湾内で)散見された。
これがもしもドナルド・トランプであったなら、蔡英文はやはりトランプを「台湾の真の友人」と呼び、彼の「業績」を称賛するのだろうか。そうなのだろう。中国との関係において台湾の立場を強化することに役立ちさえすれば、トランプがいかに米国の人々の間に差別を作り出し、法治主義を踏みにじり、権力を私物化しようとも、そんなことにはおかまいなしに「真の友人」と手放しで言うのだろう。ちなみに差別の助長、憲法以下法治主義の踏みにじり、権力の私物化のすべてにおいてトランプと安倍は双子だった。
トランプの支持基盤の一つであるキリスト教福音派の集会で日本のTVが信者にインタビューした番組を見た。その中に印象的な場面があった。
インタビュアー:トランプさんはセクハラ問題、女性蔑視、人種差別発言など頻繁にしていますが、そんなトランプさんを、基督教徒であるあなた方がなぜ支持するのですか。
信者:彼の精神生活がどうであるのか私は知りません。ただ、人口中絶禁止を実行してくれるのが彼だけだから支持するのです。私の関心はそこだけです。(That’s all I’m interested in.)
「私の関心はそこだけです。」―トランプの対中国強硬姿勢、そして安倍の戦争法案、集団的自衛権行使の容認、その延長線上にあると示唆される「台湾有事は日本有事」発言、これらが台湾にとっての 「私の関心はそこだけです。」になるのだろうか。他のことは知りません。どうでもいいのです。私の関心はそこだけです、と。
日本を普通の国に?
同じようなことが過去にもあった。第一次安倍晋三内閣が成立した直後の2006年10月、民進党の游錫堃主席(当時)が、東京の早稲田大学で講演し、安倍晋三に対して「新たな思考で国際社会の期待に応えて、日本を『普通の国』にして、アジアを率いて民主主義のコミュニティーを大きくすると信じている」と、最大限の賛辞を送った。2003年に、安倍晋三たち自民党が「有事法制」を成立させ、その後の軍事化への道を大きく開いた。その安倍晋三が総理大臣になったのだから、この路線でがんがん行ってほしいというわけだった。游の言う「普通の国」「成熟したパートナー」とは、軍隊を持ち武力を行使する国であり、「民主主義のコミュニティー」とは、軍隊を持ち武力を行使するコミュニティーであるらしい。
游の「賛辞」は、この時点までに、すでに立法化された日本の有事法制が基本的に日本防衛であり、集団的防衛へと早く話を進めろという催促だった。つまり、日本の政権に、日本の憲法を無視するよう求めたのと同じことだった。台湾の関心はそこだけです、と。日本の軍事化と、その軍事力を行使する力。それが台湾のために使われること。台湾の関心はそこだけです、と。そのために日本国憲法が邪魔になるなら、そんなものはさっさと変えちゃってくださいな。変えるが面倒くさいなら、安倍さんのように閣議決定でちゃっちゃっと「解釈変えました」ってやってくださいな。台湾の関心はそこだけです、と。
福島はもう安全、みんなで行って応援しよう!?
2017年12月、日本の復興庁が「風評被害払拭の為の戦略タクスフォース」という文章を出した。そこには、福島核災は一部を除いて解決したので海外から旅行者や留学生をたくさん呼んで、福島の悪いイメージを払拭しなくてはいけないということが書かれ、そのために「在外日本大使館・日系企業が関与している在外商工会、在外日本文化関連団体・日本語学科を有する大学日本語学校」で福島宣伝をする、と書かれていた。台湾ではこれがけっこう行われた形跡がある。2017年から18年にかけて福島と台北を舞台にして行われた「福島元気?」活動は、その分かりやすい現れだった。台湾の若者、ジャーナリストがある勢力に勧誘されて福島を訪問し、いかに安全に復興したかを台湾社会に紹介、アピールするイベントだった。
復興庁の文章を読んだとき『ん?在外日本文化関連団体・日本語学科を有する大学日本語学校って、現地が運営するものなのに、どうやってそこから日本政府の公式見解を宣伝できるのか』疑問だった。上記の「福島元気?」活動に実際に参加した人から話を聞くと、民間団体主催のはずの活動だが民進党の議員が顔を出し、日本では福島県、復興庁といった政府機関が関わっていることもわかった。つまり、台湾政府は、日本政府(復興庁)の戦略に全面的に加担したのだと思われる。教育部ももちろんこの戦略の仲間だったことは、台湾の学校が事故後一番に福島への就学旅行を開始し、回数的にも人数的にも他の国の他の団体の比ではないことを思えば、はっきりしている。
東京オリンピック招致のために「福島核災は完全にコントロールされている。東京は完全に安全だ。」と、汚染水の流出を止めることができていなかったのに大嘘をついた安倍晋三。その後もデータを隠し、改竄し、収束からはほど遠い状態にある福島核災について、もう安全ですよ、危ないなんて言うのは「風評」ですよ、みなさん福島に行って応援しましょう、という日本政府の戦略にニコニコと乗ってきた民進党は、確かに安倍晋三の真の「友人」なのだろう。しかし、それは友情と言うよりも、特定の政権同士が、ある状況下で利害に共通性が生まれ、互いに利用し合う関係と呼ぶべきだろう。安倍政権による福島核災のカバーアップに蔡英文政権が協力し、次に述べるコロナ問題でその見返りを得た、という関係だ。
困ったときに助け合う友人たち?
2021年6月から6回にわたって、日本政府はAZワクチンを台湾に供与した。日本では副反応の血栓問題があって当面の使用を躊躇していたAZワクチンだ。台湾ではAZの使用はすでに認可されていたが、ある事情があって台湾のワクチン備蓄は極端に少なかった。そこに日本が供与を申し出て、蔡英文が「おお、日本は真の友人だ」と例の調子で称賛ツイートする事態になった。
ある事情とは、要するに民進党の不手際でワクチンの国際争奪戦に台湾が大きく出遅れたことだ。コロナ対策優等生だった台湾は、2021年の2月時点でも首相が「台湾は大丈夫、ワクチン政策は急がない。他の国の様子を見てから決めよう。」と悠長なことを言っていた。5月になって状況は激変、警戒レベルは3に引き上げられたが、ワクチン備蓄はAZ 20万回分しかない。大陸からは再三ワクチン提供の申し出があった。民進党としては死んでも受けられない。郭台銘その他が、政府にはできなくても自分たちなら海外からワクチン調達できるけど・・・と嫌味。台北市長、新北市長はタッグを組んで蔡英文政権打倒をぶち上げた。評判のよかった陳時中も、感染者数の上方修正を繰り返した(校正回帰)ためにメディアで大いに叩かれた。コロナ優等生政権が一転して崩壊の危機に晒されたわけだ。そこに登場した白馬の騎士が、自民党、安倍晋三だというわけだ。安倍はお友達の蔡英文にワクチン供与という助け船を出し、蔡は大げさに感謝してみせた。日本右翼と民進党のラブ・コメディー第二幕はこうして美談化されて残った。
たしかに蔡英文政権と安倍晋三政権は互いに利用し合う関係のようだ。しかし安倍晋三を「台湾の永遠の友人」と呼び、その言説を流布し、特に若者たちの頭の中にこれを刷り込もうとするのは、単に間違っているだけでなく、倫理的に問題のある行為だろう。政治的な目的のために政権同士が利用し合うことは日常的にどこででも起こることであり、内容に賛否は分かれるだろうが、それ自体は特に責められるべきことではない。しかし、それを粉飾し、美化するのは歴史修正主義以外の何物でもない。
正義でも友情でもいいけれど
2005年夏、私は東海大学の学生たちと沖縄、辺野古を訪れた。当時から辺野古に新しい米軍基地が建設されようとしており、それに反対する市民たちがテントで抗議している場所に行って話を聞いた。抗議の人が「あなたたちは台湾から来たのね。」というので「はい、台湾です。」と答えると「台湾人は沖縄に米軍がいてうれしいんじゃないんですか。」とまず最初に聞かれた。すると、学生の一人がしばらく考えた後で大きな声で「いいえ、台湾は台湾人が守ります」と言った。その場の雰囲気から「はい、うれしいです」とは言いにくかったとも考えるけど、この学生には彼なりの正義の判断があったと思う。誰かの大きな犠牲の上に自分たちの安全を考えるべきではないという正義の判断があったと思う。今、台湾の権力者たちに、そうした正義の感覚はあるのだろうか。もちろんあるのだろうとは思うけれど、よく見えなくなっている。(了)
付録:自由時報9月28日の記事
反安倍國葬團體稱萬人抗議 網貼空拍照、數據打臉:只有500人
日本已故首相安倍晉三國葬昨(27日)舉行,雖然前來悼念的民眾人數很多,但還是有少部分反對國葬的人士在會場附近抗議,主辦單位聲稱有1萬名民眾參加,卻被日本網友PO出當時的無人機空拍圖與日本警方統計的數字打臉。
推特帳號「@tomo_toj」PO出1張無人機空拍圖,可以看到照片中在廣場上抗議國葬的人數零零散散,與昨日來會場悼念的人數相去甚遠,推特網友「@XU3F8wI1Csm5HQ2」也PO出日本警方統計的數字,指出反對安倍國葬的示威者,主辦方宣稱有1萬人,警方則宣布只有500人。
https://news.ltn.com.tw/news/world/breakingnews/4072508
安倍国葬への抗議者1万人と言うが、ネットに投稿された写真を見るとその数わずか500人
昨日27日、故安倍晋三元日本首相の国葬が行われた。多くの人が葬儀に訪れたが、式場近くで抗議する少数の人たちがいた。主催者発表では1万人と言うが、ネット市民の投稿したドローン写真、および日本警察発表とはほど遠い数字だ。
"@tomo_toj"によると抗議者はまばらで、弔問に訪れた人数には比べものにならないという。(中略)主催者は1万人と言うが、警察発表は500人にすぎなかった。【阿川訳】
驚くべきことに「自由時報」は、あるツイッターの書き込みをファクトチェックなしに垂れ流した。27日には、日本でもいろいろなデマが流れた。いわく、「日本野鳥の会が調べたところ、抗議者数は307人だった」とか、「警察発表は500人だった」とか。日本野鳥の会は、そんな調査をしていないとデマに抗議した。日本警察も抗議者数を発表したことはないと否定。両方とも、抗議を矮小化する目的で流された悪質なデマだった。
自由時報と言えば、それなりに大手のメディアだ。台湾の大手メディアが、なぜこのような杜撰なだけでなく、日本の抗議者と抗議を矮小化する目的の記事を流したのか。記事は現在(10月31日現在)まで訂正も、削除もされていない。
【阿川記】

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