ビルマ映像と、ビルマの現在

 二週続けて水曜日の定例「聊聊」でビルマものを観た。ひたすら重かった。
最初の一本「Burma VJ 消された革命」は、2008年、デンマーク映画。ビルマから秘密のルートを通して国外に映像を送り続けたDVB(Democratic Voice of Burma=ビルマ民主の声)の活動を軸に、20078月から9月にかけて起きた反政府デモ(別名「サフラン革命」)の顛末を描いたもの。DVBのメンバー(ビルマ人)は、小さなビデオ・カメラを隠し持ち、民衆のデモとそれを制圧する警察暴力を映像に収め、ノルウェーのオスロ(ラジオ放送、ビルマ民主の声の本部がある)に送る。送られた映像はネット上だけでなく、BBCなどの大手メディアにも流れた。日本人ジャーナリスト、長井健二がデモ撮影中に警察に撃たれて死亡した事件もこのときのエピソードの一つだ。
デモの先頭を切ったのは仏教の僧侶たちだった。全ビルマ仏教僧連盟を挙げての抗議行動になった。軍事政権側はビルマ中の僧院を急襲した。約4000人の僧侶たちが連れ去られた。101日、BBC とビルマ民主の声は、僧衣をはぎとられた僧侶の遺体が川に浮かんでいると報じた。未だに僧侶を含めて数百人の行方が分かっていない。

「ビルマ:人間の悲劇(Burma:A Human Tragedy)」は2011年のアメリカ合衆国作品。「Burma VJ 消された革命」がDVBメンバーの手持ちの家庭用ビデオの不安定な映像が中心だったのに比べると、こちらはプロっぽい(金のかかった)映像で、軍事政権の悪行と、それに抵抗するカレンなど少数民族の闘争、難民キャンプの様子などを、アウン・サン・スーチーのインタビューを交えながら紹介していく。
Burma VJ 消された革命」もアンチ・軍事政権宣伝映像ではあるのだけれど、こちらの『目線』は(アウン・サン・スーチーも含めて)“上から目線”が目立った。DVBの映像にも、もちろんある程度の“上から目線”はあったが、撮影している自分たちも人々と一緒に逃げまどい、逮捕と拷問の危機にあり、苦悩があった。「ビルマ:人間の悲劇」には撮影者や製作者の影がなにもない。確かに映し出される映像は衝撃的で、つぼにはまっているのだけれど「あなたたちはどういう立場でこの事態にかかわっているのよ!」と叫びたくなる。

ビルマではサフラン革命後の2008年に新憲法が制定され、“民主的な”選挙がおこなわれるようになったと報じられているが、憲法をめぐる国民投票も、その後の選挙も元軍事政権を担った軍人たちの強い影響下にあり、その合法性については多くの疑問が出されている。
以下、現在のビルマの状況について「ビルマで何が起きているか(What is really happening in Burma today?」から抜粋、翻訳しておく。

ビルマの国土と人民は「民主化と開発」という虚偽の名目の下に、私が「資本主義の手先」と呼んでいる学者たち、外交官、開発援助専門家たち、国際機関の代表者たち、投資家たち、企業家たちによって略奪され、売り渡されようとしている。文民化された政府を支持しているのは誰かと言えば、ビルマの資源と富を自分のものにしたいと思う者たちだ。
ビルマはカンボジアのように貧困国でまだまだ開発援助が必要だ―そういう主張がある。カンボジアの1993年の第一回総選挙の際には六十億ドル以上の援助が政府および民間組織に与えられた。しかしカンボジアの一般の人々には1ドルも流れず、政府高官、国際機関のいわゆる専門家たちが儲かったに過ぎない。開発業者たちは汚い手口で土地を接収している。人々は土地から追い出されるが、どこにも訴えることができずにいる。ビルマでも同じことが起こっている。カンボジアは民主国家ということになっているが、フン・センが未だに支配している。
必要なのは援助ではなく、市民が国作りに参加することこそが求められているのだ。それもアリバイ程度に少数の特権階級が参加するだけでは十分ではない。しかし、ビルマではそれも不可能だ。
17世紀と18世紀の資本主義者たち、ビジネスマンたち、貿易会社が英国に植民地を開いた。(中略)今、また、西洋の政府は、自国の企業のために新たな市場を開こうとしている。彼らの関心はビジネス、市場、負債にしかなく、健康にも教育にもエコロジーにも公共性にも関心はない。EU、ノルウェー、カナダ、アメリカ合衆国、オーストリア各政府は、民主化を遂げた“文民政府”に対して、これまでの経済制裁のほとんどを解除した。(オーストリアはそもそもビルマへの投資を禁止したことは一度もなかったが。)オーストリア、フランス、アメリカ合衆国、タイ、中国、インド、ロシア、マレーシアの石油と天然ガス会社が、現在ビルマで操業している。(石油と天然ガスは、ビルマの支配者たちにとって最大の収入源で、2011年から2012年の会計年度の収益は30億ドル。こうした収入は過去数十年間、軍事政権内の将軍たちのポケットに入って来た。)

 2008年の大型サイクロン「ナルギス」は(ちょうど2005年にアメリカ合衆国南部を襲ったハリケーン「カトリーナ」のように)ビルマの大都市を「白い紙」(ナオミ・クライン「ショック・ドクトリン」の言葉)にしてしまった。そのとき「援助よりも監視」(日本の新聞の見出し)と非難された軍事政権は、ここで大きく戦略を変えていった。アタック(ATTAC)のマーク・ジョンソンはこのときの状況をこう書いている西側は、サイクロンを利用しようとしている。カンボジアと同様の不平等な条件で西側に投資を開放し、ビルマの港湾へのアクセス権を中国に与えた最近の協定を撤回するような、より従順な政府を押し付けることである。』軍事政権が政府の(形式上の)“文民化”を進め、欧米派のアウン・サン・スーチーを(これもとりあえずは形式的に)政府内に取り込むという戦略転換に出た最大の理由は、その方が利益になるからだ。民主化してよかった―そのように言えるのは、今まで世界的な批判にさらされてきた軍事政権のエリートたちかもしれない。今は“世界スタンダード”が認めるマネーゲーマーとなり、過去の汚名を払拭できるだけでなく“合法的に”国民を搾取できるようになったのだから。

DVBの仕事は(もしこれからも継続するなら)これからの方が過酷なものになると思う。軍隊や警察が通りで民衆の血を流す、という分かりやすい暴力に代わって、今は資本主義の巧妙な暴力が相手なのだから。(村山さたね)

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