台湾総選挙雑感
2016年1月16日、台湾総統選挙が行われた。前評判通り、総統選挙は民進党候補・蔡英文氏の圧勝だった。そして同日投開票された立法院選においても民進党は大勝した。総統選の結果はある程度予測出来たものの、立法院選は「ねじれ」るのではないかと予想していた。しかし蓋を開けてみれば民進党の大勝・国民党の大敗だった。
立法院選で善戦したのが「第三勢力」と注目された「時代力量」だろう。結成1年目の新党で、2013年の「ひまわり学生運動」を契機に結成された新興政党である。今回の選挙では「第三勢力」としてどこまで善戦するのか注目された。民進・国民両党に比べ議席数は少ないものの5議席を獲得した「時代力量」は第三政党に踊り出た。民進党と国民党による二大政党の構図はこれからも続くだろうが、新興政党の躍進によって台湾の政治地図が今後どのように塗り替えていくのかその動向に注目したい。
蔡氏の総統就任は5月20日である。蔡氏は、馬英九政権が進めてきたこれまでの政策をどの程度踏襲し、また差異化を図りながら独自の政治を展開していくのだろうか。その手腕が今後試されるわけだが、いずれにしても、中国との関係が重要な争点の一つであることには変わりない。
例えば、南沙(スプラトリー)諸島はどうだろうか。南シナ海に位置する南沙諸島は岩礁や砂州からなる島嶼群であり、中国、台湾、フィリピン、マレーシア、ブルネイが諸島全部あるいはその一部の領有権を主張している。台湾は、高雄市の一部として太平島を実効支配し、中国は南沙諸島の領有権を主張し軍事基地化を進めている。南沙諸島をめぐって台湾と中国の間で現在どのようなやりとりがなされているのか具体的には分からないが、馬英九政権であれば南沙諸島の開発は互いの利益に見合うものだった。しかし馬政権とは政治的立場を異にする蔡政権の場合、南沙諸島の領有権問題も一つの争点になりそうだ。
それと関連して、民進党が政権に返り咲いたことによって東アジアの政治状況はどのような動きを見せるのだろうか。安易な推測を承知で言えば、中国との関係次第によっては東アジアの対立構造がより先鋭化されるのではないかと危惧している。台湾と中国の緊張度がませば、お馴染みの対中国(北朝鮮)恐怖論から台湾や日本では軍事化が加速するだろう。そうなれば中国・北朝鮮においても同様に軍事化が進められるに違いない。そして沖縄辺野古への米軍基地移設はより正当性を増し沖縄はより厳しい状況に追い込まれるのではないか。
今回の総統選の結果をどのように受け止めたらよいのか。実は複雑な心境だ。もちろんそれは台湾と中国の統一を歓迎するものではないし、台湾の独立を支持する立場でもない(個人的には独立か統一かという二項対立で現在の台湾・中国を議論することにあまり生産性を感じない。しかし独立・統一という構図が歴史的にどのように作られてきたのかを知ることは現在の東アジアを考えるうえで重要だと考えている。帝国日本による台湾の植民地支配がなければ、独立・統一という議論は現在とは異なる文脈で歴史的展開を見せていたかもしれないし、そもそも独立・統一という議論すらなかったのかもしれない。そう思うと帝国日本の植民地主義は根深いと私は考えている)。
考えたいことは、今回の選挙を台湾枠内の問題として捉えるのではなく、東アジアの同時代的な連関に位置づけたときに何が見えてくるのか、である。今回の総統選挙に限らず経済・政治・歴史そして個人の経験にしても、台湾は台湾、沖縄は沖縄といういわば内部の特殊を内部のなかで理解するのではなく、東アジアの同時代的なコンテクスト・連関のなかに置き直して考えてみる方法を自分なりに追求していきたい。
「東アジアの対立を煽るだなんて!」と民進党に一票を投じた有権者の声が聞こえてきそうだ。あるいは「東アジアにとって馬政権のほうが安全だと言いたいのか?」という声も聞こえてきそうだ。しかし統一であっても独立でもあっても(とどのつまりどの政党が政権を握ったとしても)きっとどこかで何らかの対立や軋轢は生まれる。それは東アジアを巻き込んだ論争に発展するかもしれないし、路地裏や屋台など日常の一場面における口喧嘩なのかもしれないが。いずれにしても、民進党の大勝に踊り国民党の大敗を笑うのではなく、また今回の選挙結果に満足するだけではなく、それぞれの持ち場や立場に即しながら東アジアの視野で今後の台湾のゆくえを見守ることが次のステップとして考えられよう。そこではおそらく東アジアの多様な局面を個別具体的に生きている他者への想像力が試されている。(冨永悠介)

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