イスラエルについて正直に話せない

 クラスが終わり、電気を消して暗い廊下に出ると暗闇から白いTシャツが目の前に忽然と出現。一人の学生がみんながいなくなるのを待っていたようだ。質問がありますとも言わず、彼女は話し出した。「私は政治学の専攻で政治学の先生も台湾政府のイスラエルへの態度に批判的で…」と彼女は切り出した。今日のクラスはネタニアフの国連でのスピーチで多くの代表団が退席し国連前が抗議者で埋め尽くされたというニュースを皮切りに、政府の情報操作について議論した。そこで台湾政府の対イスラエル姿勢が話題になった。彼女はそのことを言っているようだ。

   彼女は暗い廊下で話を続けた。「でも、イスラエル批判に回ったら、トランプの機嫌を損ねるのは目に見えている。それは対中国という面では、台湾にとって危険だ。イスラエルのしていることは許せない。でも、それを公然と言えないのが、どう言ったらいいかわからないが、悔しい」…その気持ちを分かってほしいということのようだった。クラスのほかの学生たちの多くは、台湾政府がイスラエルに対してどういう態度なのかを知らなかった。そういうことは世間で(SNSで?)話題になっていないから、台湾政府はこの問題について中立的なのではないかとさえ言うものもいた。政治学専攻の彼女は、そこでは発言しなかった。そこで反論しなかった、できなかったことが、彼女を暗い廊下に立たせていたのだろう。

 

話しているうちに、彼女は少し言葉に詰まった。感情も高まってきたのだろう。「そういう葛藤を抱えているのはあなた一人ではない」と私は伝えたかった。ガザについても、台湾政府の親イスラエル姿勢についても知らないという人たちは、葛藤などないかもしれないけど、そこからは何も生まれない。人々は騙され、振り回されるだけ。緊急事態だ、考えている暇はない、中国が襲ってくるぞ…そんな声に踊らされないで、ゆっくり立ち止まって、迷って、この先自分たちがどういう世界に生きていたいのか考えて、それでいいんじゃないか、そう伝えたかった。そう伝えられたかどうか自信はないけれど、彼女はひとしきりしゃべってすっとしたのか、帰っていった。

 

台湾の若者に「私は平和を望むけど、中国が戦争をしかけてくるかもしれない今、台湾軍の軍備増強、米軍や自衛隊の存在が必要だ」という意識がかなり広がっているように思う。で、そのためには安倍が実際どんな人間で日本の民主主義にどういう害を与えたにせよ、「台湾有事は日本有事」と公言した一点をもって「台湾の真の友人」とし、トランプも同じ、イスラエルも反中・親台の一点をもって(米国議会が武器売却を渋ったときイスラエルが代わりに台湾に武器を供与してきた迂回供与の歴史も影響するけど、それは若者たちは知らない)支持するということになるのかもしれない。この学生のように、とまどいと悔しさの中にとどまることができる人が増えるといいなあ、などと勝手に思うのでした。(阿川記)

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