霧社事件の物語をセイダッカの手に:S老の孤軍奮闘
1ヶ月ほど前、S老を久しぶりに訪ねた。S老は興奮気味に、霧社事件80周年紀念式典のことを話してくれた。「モナ・ルダオと抗日蜂起したタクダヤを英雄化し続けることは、セイダッカの中の対立を深めるだけだ。英雄物語は、国民政府が原住民を反日化すると同時に国民党と原住民は同じ敵と勇敢に戦ったという宣伝のために流布された。この英雄物語の中では味方蕃のトーダやタクダヤが”民族の裏切りもの”のように扱われる。それを何十年も続けてきたために、今でもトーダとタクダヤ、そしてトルクの三つの集団が、同じセイダッカとして団結できない状況を作り出してきた。私たちは霧社事件の物語を、国民的な英雄物語としてではなく、自分たちセイダッカの物語として取り戻したい。蜂起したタクダヤにも誤ったところがあった。味方蕃にも誤ったところがあった。日本の政策にも誤ったところがあった。関係者が互いの非を認めて和解するところから、われわれの物語としての霧社事件を作り出していく可能性が生まれる」―そんな話を仁愛郷の会議(霧社事件記念日式典の会議)で言ったら、その場にいた人たちはみな賛成してくれた。だから今年の式典は和解のための重要な式典になる・・・・S老は興奮の原因をそのように話してくれた。昨日、またS老と話す機会があった。S老は元気のない声で「もう霧社事件のことは話したくない」と言う。どうしたのかと聞くと「トーダとトルクの人たち(WD牧師やP牧師のことだと思うが)にこの考えを伝えたけれど、彼らは何も言ってくれなかった。モナ・ルダオの子孫たちからは”お前が扇動して私たちから霧社事件の物語を奪おうというのか!”と叱られた。それ以来、仁愛郷の会議にも参加していない。」と教えてくれた。同じく昨日会ったスヌイのBさん(織物の工作室をやっている)は「今度の記念日には馬総統も来るんだ、今、総統が着るための(セイダッカの)服を作っているんだ」と言う。総統が記念日に来るなんて本当だとしたら初めてだろう。霧社事件を国民的物語から取り戻したいというS老の願いは、こんな形でひねり潰されていいのだろうか。映画セデック・バライもまた国民的物語を強化するのか。25-26日には成功大学で大きな霧社事件80周年を紀念するシンポジウムが予定されており、霧社事件とは何だったのかというキーノート的な講演をするのは日本の台湾学会の会長だそうだ。このシンポジウムと紀念式典が果たしてどのようなものとなるのか、発見するのが怖い気がする。
(2010.10.12 Awil Kazuo)
(2010.10.12 Awil Kazuo)

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