「国際機関」の「国際基準値」とはどんなものなのか(1)
ここ2年間の間に台湾の輸入食品安全基準が“改正”され、たとえばセシウム134+137に関しては370Bq/kgから600Bq/kgに引き上げられました。台湾行政院衛生署は内外からの批判に対して、改正は規制の範囲を大幅に拡大して基準を強化するものであり、これまでの規制対象核種(ヨウ素とセシウムだけ)にストロンチウム等7種の核種を追加するわけだから規制強化であり、緩和ではないと説明しています。じゃあ、なぜセシウム134+137に関しては370Bq/kgから600Bq/kgに引き上げたのか。台湾行政院衛生署の説明では、改正前の370Bq/kgという値は、米国がチェルノブイリ事故後にICRP(国際放射線防護委員会)の評価資料に基づき設定した値を参考とし、その値をそのまま用いてきたものだけれど、「国際的により十分な科学的評価と研究資料が出ている」ことから、欧州連合(EU)の現行規定と同じ600Bq/kgに引き上げた。これは、コーデックス規格*よりも厳しいんだから(一部の批判者が言うように基準を緩和するのではなく)強化なんだ、というわけです
*コーデックス規格というのは国連がらみで作られた食品安全規格委員会(コーデックス委員会)が作成する食品安全規格で、WTO(世界貿易機構)が食品貿易で準拠している規格のことです。
米国の基準、ICRP(国際放射線防護委員会)の基準、欧州連合(EU)の基準、コーデックス規格…いくつもの“国際的に権威あるんだぞ”基準が引き合いに出され、台湾の基準はそれらに“則っている”んだから問題ない―そういう説得を内外に対して行ったわけです。
私たちは一般に、こういう聞いたこともないけど権威がありそうな“国際基準”を引き合いに出されると「ああ、そうなんだ。じゃあ、大丈夫だよね。」と思ってしまう。でも“国際基準”やそれを作り出している“国際機関”ってどんなものなのか、調べていくと「これは大変だ、全然大丈夫じゃない」という気になってきます。
国際的な食品安全規格は(ほとんどもっぱら)食品貿易のために存在していて、消費者の健康というのも当然のように謳われてはいても二義的な意味しかもたないことが第一にして最大の問題です。食品安全基準を決定するのは科学ではなくて、商業とそのバックにある政治(この二つを切り離すことは次第に困難になってきていますが)です。商業的なリスク計算では、食品が健康被害をもたらして訴訟が起きた場合の(もみ消し、口封じ、因果関係なしという論陣を張るための‘専門家’雇用費用、現地の政治家の抱き込み費用、メディア対策費用などの)経費と、売上全体とをバランスシートに載せたとき黒字ならば続行ということになります。もちろん訴訟は商品イメージを傷つけますから単なる訴訟費用を超えて売上全体に影響するので企業はそれも計算に入れて考えなければならないわけですが、WTOを動かしているような巨大多国籍食品関連、製薬関連企業、エネルギー関連企業にとってメディア操作は手慣れた作業と化しているのが現実です。
EU基準
EU基準は「希釈係数10%」などというらしいのですが、食品の1割がその汚染レベルと想定しての輸入基準、つまり汚染した食品1割に対して汚染されていない食品9割なら食品からの放射能の平均摂取量は10分の1になるという前提に立った基準値だそうです。セシウム134+137が600Bq/kgまでOKというのは、輸入食品全体で言うならば60 Bq/kgということになります。10分の1に希釈されるだろうと考える根拠はおそらく経験的なものなのだろうかと思いますが、こんな前提が危ないことは計算が不得意な人でも分かります。これが基準として採用された背景には、Euratom(欧州原子力共同体)とICRP(国際放射線防護委員会)という経済団体の圧力があり、彼らと欧州各国政府およびEUとの癒着構造があると言われています。EU内の科学者、市民団体から批判の対象になっている基準であるにも関わらず、台湾衛生署は「国際的により十分な科学的評価と研究資料が出ている」と言います。これはEuratom(欧州原子力共同体)とICRP(国際放射線防護委員会)、さらには核エネルギー開発と普及を使命とする国際団体、IEAE(国際原子力機関)の“受け売り”ですが、ここまで来てまた“権威ある国際機関”にぶち当たるわけです。
(続く―阿川)

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