元原発技術者・菊池洋一講演会in台北



 2013612日端午節、GEのグループ会社GETSCOの元技術者・菊池洋一氏が緑色公民行動連盟主催で台北で講演会を行った。この日、菊池氏は体調がすぐれず、薬を飲み無理を押して話をしてくれたらしい。台湾に来るのはこれで三度目だという。菊池氏がGEのグループ会社に入社したとき、元々は台湾の原発の建設担当に決まっていたが、のちにアメリカと台湾が断行したため、結局実現はしなかった。代わりに東海・福島原発の建設を担当し、現場監督となった。もしかしたら自分が台湾の原発建設に関わっていたかもしれないこともあって、台湾のことが格別に気になり、それが理由で台湾を訪れているという。
 32歳で辞職した後、自分の犯した罪の大きさを知り、50ccバイクで全国を回りながら、原発の恐ろしさを伝えてきたそうだ。特に静岡県の浜岡原発は直下型地震の危険性が高く、万が一事故が起これば、チェルノブイリやスリーマイルとは比べ物にならない最悪の被害が想定されるため、一刻も早い廃炉を求めてきた。しかし、その前に311東日本大地震によって、福島第一原発の1から3号機が事故を起こしてしまった。いま日本をはじめ、オホーツク、台湾、フィリピン、インドネシア、ニュージーランドなどをつなぐ環太平洋ラインは地震多発期に入ったといわれている。そんな中で、台湾では第四原発の建設を一時中止してはいるものの、廃止如何を成立自体可能性の低い公民投票に委ね、日本では原発の再開に向けて安全対策の新基準を施行することになった。菊池氏は原発の設計や構造自体の欠陥、放射線被爆の恐ろしさ、原発が差別構造の上に成り立っているという根本的な問題を語った。
 菊池氏の話は、元技術者だけに素人には理解しにくい難解な部分もあったが、会場に集まった100人以上の人々は熱心に耳を傾けていた。金属と金属を接続させる溶接一つをとっても、金属によって、割合によって、方法によってそれぞれ専門家がいるのだそうだ。そしてそれに関する資料も膨大なものになる。従来使われている格納容器の溶接は自然とひび割れが生じる構造で、日本の原発は今溶接なしの格納容器に順次入れ替えを行っているが、生産が全く間に合っていないとのことだ。
 色々と驚かされる話が多かったが、中でも菊池氏が「エイズは放射線が原因である」と述べた時には、会場が一瞬どよめいた。菊池氏の言い方はこうだ。放射線は甲状腺がんや心筋梗塞、白血病など様々な病気を引き起こすが、放射線の一番怖い点は免疫力を低下させることだそうだ。エイズの多い地域はアメリカやフランスが原爆・水爆実験を行った緯度上にあり、大気の対流により、その地域に放射性物質が降り落ちているそうだ。つまり実証されてはいないが、免疫力を低下させるエイズの原因は放射線だと考えることができるということらしい。体内に取り込まれた放射線は水分子を分解し活性酸素を作る。その活性酸素は体に様々な悪影響を与える。老化現象や、免疫力の低下、最近ではリュウマチや糖尿病など、あらゆる成人病の原因も活性酸素だといわているらしい。確かにインターネットで調べてみると、放射線と活性酸素の関係を説明したページがいくつもある。
 菊池氏の話の中で「ペトカウ効果」という言葉がでてきた。これは一般的には安全値以内の低線量被爆の方が、高線量被爆よりも体内で悪影響を及ぼすということだ。もしこれが実証されたなら、これまでの安全対策は全く無意味になる。
 私が菊池氏の講演の中でもっとも共感した部分は「原発自体が差別構造の上に成り立っている」という部分だ。この言葉自体は彼が別の講演で言った言葉(動画サイトで見た)だが、内容的には菊池氏は今回の講演でもこの点を強調した。事故以前に、人間が核エネルギーを使用するということ自体が差別と切っても切り離すことができない面を持っている。ウランを採掘する人々は、アメリカであればネイティブアメリカのホピ族だったり、インドでもカーストの低い人である。また、原発を管理するためには、メンテナンスを行わなければならない。その際、高線量の格納容器内部へ不十分な装備で入っていくのは、電力会社の人間ではない。借金を返せなくなったような人がやくざに無理やり連れてこられたり、日雇い労働の人たちが掃除などのメンテをしているのだ。また、核廃棄物を受け入れるのはどういうところだろうか。過疎化で仕事がなく、核廃棄物を受け入れざるを得ないようなところではないのか。台湾でも原住民の多く暮らす離島・蘭嶼に作られ、新たに人口の少ない台東県に作る計画もある。お金で貧しい国に引き取ってもらうなどという計画もあるのだ。人の犠牲の上に成り立っている電気を、そこまでして使おうとしている国や企業が「いじめは良くない」と言って何の説得力があるだろう。菊池氏は何度も差別されている人が犠牲になっていることを忘れないように、と繰り返していた。
 会場には台湾電力(以下台電)の人が来ていた。最後の質疑応答で真っ先にマイクを持った人物は菊池氏の方を向きもせず、会場に向かって原発の安全について語り始めたのだ。自らを台電の者だと言い、自分は台湾の原発を全て見てきて何でも知っている、二つのこと(この二つを聞き取れず)が実現すれば、全く安全なものだと主張した。会場は最初あっけにとられていたが、すぐに大きなブーイングが起こった。「本当だったら名前を言いなさい」「嘘を言うな」などとあちこちから飛び交った。また台湾で原発の技術師をしていた人も来ていて、台電の人にそんなことが分かるわけがないと言っていた。電力会社は現場で何が起こっているのか何も知らないのだ。ヒートアップした会場からは大きな拍手が起こった。私も何だか興奮していた。前述した専門的な溶接の話を菊池氏が「せっかく台電の人が来ているのだから台湾ではどうなっているのか聞いてみましょう」と投げかけた。すると台電の人は素直に分からないと認めるという一幕もあった。台電の人の登場により、それまで静かに聞いていた会場が一気に白熱し、来ていた人たちの原発に対する関心の高さが分かった。
 今回菊池氏の話を聞いて、原発は無数の専門家たちの「つぎはぎ」でできあがっており、それでも完璧なものを未だ完成させることは出来ていない、そして人間が不完全な生き物である以上、原子力技術が完全になることはないだろうと感じた。さらに現場監督という立場の人間でも原発の全てを把握するのは不可能であるのに、どうして政府や電力会社の人間が安全だと言えるのか、その何の根拠もない迷信から、私たちは自分たちを自分たちで守らなければならないと強く思った。(了)
(6月14日 吉田藍)
 
 


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