「国際機関」の「国際基準」とはどんなものなのか(2)
2012 年5 月23 日、国際保健機構(WHO)が「2011年東日本大地震津波後の原発事故がもたらす被曝線量の仮算定(Preliminary dose estimation from the nuclear accident after the 2011 Great East Japan Earthquake and Tsunami)」というリポートを公表しました。これに対してドイツに拠点をおく「核戦争阻止国際医師連合(IPPNW:International Physicians for the prevention of nuclear war)」はすぐに“こんないい加減なデータではなく、ちゃんと調べろ”という反論を出した。IPPNWは実際に福島現地を調査しているので、国際保健機構(WHO)のように日本政府が出した推定値に基づいて「ただちに危険はない」などと主張することに猛烈に反対する根拠がありました。
WHO
国際保健機構(WHO)には人体への放射線被曝を担当する“放射線健康局”が2009年まではあったけれど、すでに廃止されていて、放射線被害に関してはIAEA(国際原子力機関)やICRP(国際放射線防護委員会)に“おまかせ”の構造ができあがっています。しかし、IAEA(国際原子力機関)も(少なくとも現在の)ICRP(国際放射線防護委員会)も、核エネルギー開発推進のための組織であるため、これらが積極的に放射線被曝の実体を客観的に公表するかどうかには大いに疑問がもたれます。WHOの放射線関係のレポートは(1959年以来)IAEA(国際原子力機関)の同意なく公表できないことになっているのだそうです。そのIAEA(国際原子力機関)の憲章には、核エネルギー開発と普及がIAEAの恒久的な任務だと謳われています。
ICRP
ICRPの被曝基準への考え方は何度も変更されてきました。1954年には、被曝低減の原則を「可能な限り最低限のレベルに」(to the lowest possible level)としていましたが、1956年には「実用的な範囲でできるだけ低く」(as low as practicable)、1965年には「容易に達成できる範囲でできるだけ低く」(as low as readily achievable)と後退した表現となり、「経済的および社会的考慮も計算に入れて」という字句も加えられ、1973年には「合理的に達成できるだけ低く」(as low as reasonably achievable)とさらに曖昧で事業者側に都合のよい表現に変えられてきました。
1954年にICRPが核実験や原子力利用を遂行するにあたって一般人に対する基準を設け、1958年には線量限度を勧告という形で出しました。このときアルベルト・シュバイツァーが「誰が彼らICRPに一般人の被曝を許容することを許したのか」と憤ったという話があります。
WHOの福島レポート
WHOが“専門家に委託”して、2013年2月28日に取りまとめたのが“Global
report on Fukushima nuclear accident details health risks(福島核事故の健康リスクに対する包括的レポート)”です。レポートはその前の「仮算定」の内容をほぼ踏襲し、その冒頭に、
福島第一原発事故による健康へのリスクを評価する国際的な専門家は包括的な調査に基づいて以下のように結論しました。日本内外の大方の人々にとって予想されるリスクは低く、癌の発生率が基本値よりも目に見えて増加する可能性はありません。
と日本政府の大本営発表のようなことを述べています。具体的な詳述の部分では、
すべての固形がん - 乳幼児被曝の場合、女性では約4%の増加
乳癌 -乳幼児被曝の場合、約6%の増加
白血病 -乳幼児被曝の場合、男性で約7%の増加
甲状腺癌 - 乳幼児被曝の場合、女性で70%まで増加。
という算定結果(上記は抜粋なので、正確なところはリンクから原文に飛んでください)を出しましたが「この数値にあわてる必要はなく、そもそも基本値が低いので4~7%の伸びなどは無視できる」のだというようなことを解説してもいます。しかし、日本政府の中にはこれを過大試算だとして反発する官僚たちがいて、このレポートは危険を過大評価し、住民の不安を煽るものだ、と批判した(と報道されているが、批判そのものは私は見ていないので⇒出典にあたってください)のだそうです。
異議を申し立てる医者たち
レポートが提出された直後の3月11日から12日の二日間、シンポジウム「福島原発事故の医療的、環境的影響」(ヘレン・カルディコット財団とPSR:Physicians for Social Responsibility【社会的責任のための医師団】共同主催)がニューヨークで開催されました。シンポジウムで繰り返し指摘されたのは、長期の疫学研究の成果に立つなら放射線量に「安全値」という概念は存在しない、ということだったそうです。2006年、米国国立科学アカデミーも「電離放射線への被曝と癌の発生とは線形用量反応関係にあり、これ以下ならば癌発生につながらないという程度があるとは考えられない。」と発表していますが、これは逆に癌が発生したときにその原因を放射線に帰することのむずかしさの指摘でもあるようです。
ロシア科学アカデミーのアレクセイ・ヤブロコフは「IAEA(国際原子力機関)やWHO(世界保健機構)の基準を採用したために、チェルノブイリ事故の影響で死んだ人の数も、病気の範囲や程度も、大きく過小評価することになった」と述べ、さらに「チェルノブイリ事故は、不幸にも放射性物質が飛んだ地域に居住していた何億人かの人口のうち、これまで何十万人も殺している。今後何世代にもわたってチェルノブイリの犠牲者は後を絶たないだろう。」と述べたそうです。
同シンポジウムで、ヘレン・カルディコット(先日、来台して台湾各地で講演したが反響は小さかった)は、1)WHOは現地の放射線量を測定しておらず、推定値にだけ依拠していて、2)WHOは子供たちが今後汚染されたものを一生に渡って食べ続けた場合のリスクについてまったく言及しておらず、3)WHOは、原発作業員、また高線量に晒されながら避難した人々について調査していない、と批判したと報道されています。
前述のようにWHOは放射線被曝に関する自前の部門をもっておらず、IAEAとIRCP関係の“専門家”に委託研究させたわけですが、その際に日本政府が提出した数値をもとにレポートを書いた。日本政府の見解では、たとえばセシウム137は広島に落とされた原爆の168倍ということになっています。(それも恐るべき数値ですけれど)この概算値は実際の数値の1/2~1/3に過ぎず過小算定だと考える“専門家”は小出裕章だけでなく世界中にたくさんいるようです。

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