うやむやにされる監視国家の実態



今年の初め、民進党の立法委員、柯建銘が高等裁判所集団収賄事件の絡みで被疑者になった。柯の口座に出所不明の資金が振り込まれ、柯建銘が法務部に働きかけて著名な人物を仮釈放にしたのではないかとの疑いをかけられたのだ。
この件の捜査中に、柯建銘の電話を盗聴していた特捜(SID)は、別件(「全民電通背任事件」)で起訴されていた柯建銘が(「全民電通背任事件」について)検察に上訴をしないよう裏工作をしていたことを発見。相手は検事総長の陳守煌と、立法院議長の王金平。
SIDの盗聴記録2013629日分の一部、王金平が柯建銘に電話で“勇さんと話したがOKだ”と話した場面が公開された。「勇さん」とは法務部部長の曽勇夫のこと。結果、検察は柯建銘を上訴せず、201378日に柯建銘の無罪が確定した。この特捜の捜査結果を受けて、910日に馬英九は王金平の党籍剥奪し、立法院議長を辞任するよう要求するにいたった。馬英九は「王金平は司法に介入した」と批判し、「立法院機構の責任者として不適切」、「国民党の尊厳を保つためにも辞任をしてもらいたい」と攻撃。王金平は「台湾の検察は職権を乱用して上告する」ことが問題と反論し、台湾の司法改革チームも毎年のように、検察の職権乱用による上告の事例を発表していると指摘し、さらに、「電話の監視」も正規の手続きを経ていない「職権乱用であり違憲だ」と批判。【特捜:最高法院檢察署特別偵組的第一代辦公室(SID)】
 党員資格の保全を申し立てた仮処分審査で、台北地裁は913日、王金平の訴えをほぼ全面的に認め、党籍剥奪の是非を問う本裁判の確定までは、王金平が国民党員の地位を保てるよう命じた。今後国民党は不服を申し立てるが、本裁判にもつれこめば確定までは一二年はかかるため、その間、王金平は立法委員のまま、立法院長のままいることができることになる。新聞のいう「王の逆襲」だ。法的手段に訴えることをせずに(できなかったのに)、個人攻撃のようなかっこうで王金平を狙い撃ちにした背景には、王議長が同じ国民党所属でありながら民進党寄りの政見保持者で、それが核四公投、中台貿易サービス協定、シンガポールとのFTAなど、馬英九国民党が立法院を通過させたい法案の邪魔になっているという国民党側の認識があると言われる。「王の逆襲」の結果、連戦、呉伯雄、郝龍斌、朱立倫の四大派閥がこれを機会に馬英九の追い落としを画策、などというニュースも香港では流れた。(しかし、王金平と馬英九は手打ちをしたらしく、1010日の双十節には仲良く並んで登場。政治的に決着が付けられたらしい。)

王金平更迭事件が政治的な手打ちによってうやむやにされることになると、SIDの違法盗聴(かどうかは裁判で争われるわけだが)もうやむやのままにされることになる。法務部の統計によると1年間に発令される盗聴、隠しカメラ、尾行などを許可する監視令状の数は15千通に上る。これは人口の上では台湾の13.5倍にあたるアメリカ合衆国で発行される監視令状数にほぼ等しい。新しい検事総長、世銘の立法院での答弁によると2008年には電話の盗聴は6万件、2009年に7万4千件、2010年は92千件、2011年に99千件、2012年は102千件と、増え続けている。馬英九が総統になってから70%の増加(Taipei Times調べ)。そのやり方にも問題がある。法的には盗聴が完了したら7日以内に被疑者に対して盗聴が行われたことを書面で通知しなければならないとされているが、必ずしも守られていない。こうした本人への通知に先だって盗聴内容がメディアに漏洩されることもある(上記の柯建銘のケース)。
法務部は盗聴を許可する前提として十分な証拠を要求しているのか、それとも単に怪しいから証拠を見つけるためという理由で許可しているのか、判然としないのだ。台湾にはアメリカ合衆国のような「愛国者法」もなければ、Homeland Securityのような超法規的な諜報機関もない(ことになっている)にもかかわらずだ。
 エドワード・スノーデンが、アメリカ合衆国政府(NSACIA)がマイクロソフト、グーグル、フェイスブック、スカイプなどの会社を経由して(これらの会社は顧客に黙って政府に協力したのだから、それだけでもとんでもない欺瞞なのだが) 個人メールや個人情報を監視対象としていたことを暴露して一時的にはメディアでも騒がれたが、公衆の意見は「政府はテロや悪いやつらから市民を守るためには盗聴などもやむを得ない」というような方向に誘導されている。そうした傾向が、日本での秘密保全法をも容認していくとしたら、恐ろしい。(阿川


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