映像の威力:亜州水泥(遠東グループ)の嘘とごまかし



 610日、《看見台灣》の齊柏林監督が取材中にヘリコプター事故で死亡した。彼の最後の映像は、東海岸での鯨の撮影の帰りに、タロコ上空からアジア・セメントの採掘現場を撮ったものだった。『あれ、5年前に映像に撮ったときよりもずいぶん深く掘ってる…採掘は縮小したと言っていたはずなのに…』 彼の映像がネットでシェアされた。もともと776メートルの山が、今や295メートルにまでなっていたのだ。

 この映像を見て、アジア・セメントの採掘反対署名がそれまで42千人だったのが、一気に8万に跳ね上がり、翌日には15万に達した。ネットで拡散した映像の力はすごかった。アジア・セメント社は昨年末、タロコ国立公園内に25ヘクタールも侵入して採掘してたことが明らかになり、公園内での採掘は縮小しますと謝罪していた。ところが、水平方向には拡大していないが垂直方向に掘り下げていたことが、今回の映像でばれてしまったのだ。水平にも垂直にも、約束した「縮小」は行われていなかった。大嘘をついていたわけだ。

  筆者はこの話を聞いて、北米のアパラチア炭田のことを思い出した。Google Earth が [アパラチアの鉱山爆破] レイヤをリリースして 10 日間で米国および世界 30 か国以上の 1 3 千人強が、山頂除去の採炭で発生する残土を河川へ投棄しないよう求めるオンラインの請願に署名したのだった。
  上空から見ると、アパラチア山脈の山の傷跡は隠しようもなく、その傷跡のあまりの惨さに何かをせずにはいられなくなるのだろう。タロコのアジア・セメントの採掘法もアパラチアと同じ『山頂除去(mountain top removal)』だ。アパラチア炭田の蛮行を描いたジョン・グリシャムの「汚染訴訟(Gray Mountains)」(2014年)も、知らない人にとってはショッキングな内容だっただろうが、映像の力に比べたら非力だった。アパラチア山脈では500以上の山が「山頂除去」され、残土と汚染水で水脈が死んだ。

 齊柏林の映像が反対運動の引き金になった背景には、アジア・セメント社の最近のうさんくさい動きがあった。ちょっと複雑なので、順を追って書こう。
 蔡英文政権が公約とした原住民転型正義の内容として、(遠東集団傘下の)アジア・セメント社などが不法に原住民から奪ったり、使用権を騙し取ったりした土地に対して、原住民の権利を回復することが含まれていた。【それがうまくいっていないことは、本ニューズレターの『パナイの闘い』でアウイ・カズオ氏も問題にしている。】そのためには、現在採掘権を取得しているセメントや石炭ほかの鉱業会社への審査を厳しくし、新たな採掘権を許可する場合にはきちんとした環境アセスメントを実行するように《鉱業法》を見直し、改定することが必要だということが言われてきた。地球公民基金會と台灣蠻野心足生態協會などを中心に、市民団体もそういう圧力を蔡政権に掛け続けてきた。
 アジア・セメント社は花蓮の新城地区での採掘が、201711月に採掘権が切れるのを目前に、蔡英文政権が鉱業法の改定に着手する前に先手を打って採掘権の更新を経済省に申請し、こともあろうに(まあ、つるんでいたのでしょうね)経済省はこれまで通り環境アセスメントも要求せずに(なあなあで)20年間の更新を許可してしまった。それが314日のことだった。立法院経済委員会は、あわてて320日に「鉱業法の修正が成立するまで、新たな鉱業権延長請求を認めないように」との指示を出したがすでにアジア・セメントの申請には許可が出された後だった。
 齊柏林の事故死後、行政委員長(総理大臣)は、鉱業法の改定に当たっては採掘量の制限も設けると発表した。そして現在、ライセンスの延長申請が出ている42の案件に関して、同法の改定後まで、裁定を保留すると述べた。しかし、アジア・セメントの新城地区での採掘は、これには含まれていない。
 615日、世論の集中砲火を浴びたアジア・セメントは、各誌に広告を打ち、花蓮での採掘を40%縮小すると発表した。新城地区で、新たに認可を受けた400ヘクタールのうち、150ヘクタールを縮小した250ヘクタールのみ採掘対象とするとも約束し、さらに鉱業法改正が行われたら、それに従って新たに環境アセスを行うと言うに至った。このままではアジア・セメントだけでなく遠東グループ全体に世間の批判の目が向けられる。それを恐れたのだ。

 今回の事件のように、原住民伝統領域問題が、目に見える形での環境問題として注目を集めた場合には、世論の力で私企業の勝手な振る舞いを制御することもできる(ように見えただけで、実際、今後どうなるのかは不透明だが)。アパラチアでも台湾花蓮でも、それが垣間見えた。日本ではおそらくそうしたことすら起こりえないかもしれない。そのことは、また場所を変えてじっくり考えてみる必要がありそうだ。(村山さたね)

付記:台湾のセメント生産量、2016年で1千2百13万トン。そのうち、323万トンは輸出された。アジア・セメントはその台湾のセメント生産量の29%を生産する。新城地区での採掘を開始したのは60年前の1957年。蔡政権はセメントの輸出量を2025年までに15%削減すると発表している。台湾全土に188のセメント鉱山があるが、そのうち環境アセスを受けているのは25に過ぎない(地球公民基金會調査による)。高雄の半屏山は、もともと233メートルの高さがあったが、石灰岩の採掘のために181メートルしかなくなった。

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