生活保護法改悪・日本版NSC設置法・秘密保護法



 福島菊次郎さんの「ヒロシマの嘘」(2003年、現代人文社)の表紙に一匹の犬がいる。飼い主は中村杉松さん、犬はポチ。中村さんは爆心地から1.6キロ地点で被曝した。ポチを飼い始めたのはその後、生活保護を受けるようになってからの1950年ごろだったようだ。1952年か53年のことだろうと思うが、広島市の福祉課が、中村さんからポチを取り上げて殺処分にした。「生活保護を受けて犬を飼っているのを問題にされ、鑑札を受ける金もないので保健所が連れに来た」と福島さんは書いている。
 埼玉に、病気がちで生活保護を受けていた一人暮らしの女性がいた。夏の暑さに耐えられずどうにかして中古のエアコンを知人のつてで手に入れて使っていた。(埼玉県川口市の)福祉課がこれを発見して「生活保護を受けながらエアコンを使うのは贅沢だ」として、エアコンを撤去するか生活保護を打ち切るかと迫った。彼女は結局、エアコンを断念した。90年代のことだった。健康な人がエアコンなしで34度の部屋に暮らして平気だと言うのとは違うと思うのだけれど、エアコンは贅沢品だと福祉課は言った。
 生活保護受給者への風当たりはどんどん強くなっている。生活保護の条件を満たす者でも、役所によっては窓口であれこれ言って追い返す「水際作戦」が行われてきた。今の臨時国会で成立が目指されている改正案では、こうした傾向が制度化され強化される。生活保護法は、平和憲法と並んで20世紀中葉の日本の先進的な試みだった。両者ともに骨抜きにされ、解体されてゆく。
  もう一つ、今期の臨時国会で成立が目指されているのが国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案と、これとセットになった特定秘密保全法案だ。国家安全保障会議は2006年ごろからの自民党の懸案。自衛隊の海外派兵が念頭にある。アメリカ合衆国のように、自国の企業活動を「守る」ために軍隊を出したい―それが、20131月のアルジェリアでの「日揮」社員人質事件などを通して『軍隊を出したい』という自民党の欲望に火がついた。北朝鮮や中国の脅威というのも理由として使われる。イギリスだってアメリカ合衆国だって持っているじゃないか、と日本政府は帝国主義国家を引き合いに出す。イギリスだってアメリカ合衆国だって植民地を持っているじゃないか、と言ってアジアに植民地拡大を目指した19世紀末と同じ論理がまかり通る。
 さて、びっくりするくらい悪臭ぷんぷんなのは、この国家安全保障会議とセットになっている特定秘密保全法だ。国家中枢がこれは秘密だと指定すれば、それが何であれ(何であるかは秘密なので、それが何なのかも、それを秘密にすることが妥当なのかは議会においてさえ民主的に審議・検討されない)トップシークレットとなり、それを公開しようとしたら重罪になる。「基本的人権や報道の自由を損なわないよう配慮する」のだそうだが、原理的にそんなことができないのは小学生でもわかる。いくら良心的に“配慮”しようと、人権も報道の自由も国家中枢が自由に(フリーハンドに)規定する自由でしかなくなるのだから。「原発による健康被害は今までもこれからも存在しない」というのと同じく真っ赤なウソなのだが、「そうですか、配慮してくれるんならいいですよ…」などと考える人たちがいるだろうことも(今の日本であれば)想像できてしまうから怖い。
 政府(行政)のチェック機構としての議会(国会)は、瑣末な問題しか審議できなくなる。外交・防衛上の重要事項(と中枢が自由に決めたこと)は、秘密だから公開の場で審議できなくなる。原発に関する様々な情報は、原発テロが懸念されるという理由で特定秘密になる。自衛隊の配置、装備、活動なども特定秘密化される。過去にあったように自衛隊員が内部告発すれば重罪に問われるだけでなく、報道したメディアも重罪に問われる。ACTAがあるから、ネットでの情報流通も(マイクロソフト社、グーグル社、FB社その他を経由して)政府中枢の管理下におかれるから、特定秘密に触れるブログ、サイトはアクセスが遮断される。欧州会議は、(本当の理由はともかく)民主主義を圧殺するものとしてACTAへの参加を否決した。欧州は二度の大戦の後の「全体主義アレルギー」がまだ生きているのかもしれない。

 こういう状態を何と言うのだったか。ジョージ・オーウェルにならって言うなら「ビッグ・ブラザーが見ているぞ」状態? 
 台湾もTPPに参加するとしたらACTAも付いてくるわけだが、まだ危機感は感じられない。(村山さたね)

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